イギリスの情報誌「ガーディアン」ウェブ版に3月19日に掲載された記事が興味深い。
イギリスで社会問題となっている「ゼロ時間契約」で働く女性がセクハラ被害に晒されていることを問題提起したもの。
以下は筆者の抜粋仮訳。
シャーロットはロンドン中心部の大規模なパブのチェーン店舗でゼロ時間契約を結んで働いている。
彼女は客からホテルに行こうと誘われるセクハラにより精神的にダメージを受け、休暇を取って実家に2週間引きこもらなければならなかった。彼女はゼロ時間契約のため、あまり不平を主張しすぎるとシフト時間を減らされるのではないかとの懸念があり、声高になれなかったのだ。
フェイもゼロ時間契約で介護業務に従事しているが、同僚からのセクハラ被害を抗議や報告できないと感じていた。
他の匿名希望の女性は、ゼロ時間契約で高級ゴルフ場で働いているが、顧客からのセクハラ要求を受け入れるようマネージャーから注意されていたという。
2016年に行われた調査によれば、半数以上の女性は職場で何らかのセクハラを受けていたが、この数字はホスピタリティーとレジャー業界では67%に跳ね上がる。政府の広報担当官はガーディアンの取材に対し「何人も職場においてセクハラを受けることは許されないことは法律によって明確であり、雇用主はこうしたことが起きないようあらゆる対策を迅速に講じる必要がある」と述べた。しかし、調査によれば、職場でセクハラを受けた割合は正規雇用者が29%であるのに対し、フリーランサーやゼロ時間契約では43%と高くなっている。
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ゼロ時間労働とは?
ここでゼロ時間労働契約についておさらいしておこう。
ゼロ時間労働契約とは、イギリスにおける雇用形態の一つであり、就労時間に応じて賃金が支払われる労働形態のこと。
2008年の金融危機の後に急速に広まり、現在では90万人にも達すると言われている。
労働者にとっては時間に縛られない多様な働き方を実現するもの、雇用主にとってはコスト削減に貢献するもの、国にとっては失業率の減少をカバーしてくれるものであり、いわば三者の思惑が合致した制度と言える。
だが、ゼロ時間契約で働く労働者は一般的な労働者と比べて1時間当たり賃金が3分の1少ないとも言われる。また、ゼロ時間契約は勤務時間が不確定であり、ときには全く働けないこともある。このため、所得が不安定になりやすく、住宅ローンや携帯電話契約を拒否されるケースもあるという。
ゼロ時間契約の労働者はこのように労働者の権利が低い立場に置かれており、そのため社会問題化しているのだ。
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日本における働き方改革について
ゼロ時間契約の問題から思い浮かべるのは、日本における非正規雇用労働者の問題だ。
政府はデフレ脱却を目標に掲げているが、このためには労働者の賃金を上昇させ、内需を拡大していかなければならない。一人あたりの賃金単価を高めることで、社会全体の賃金を底上げし、景気を良くしていくのだ。
このために乗り越えるべきハードルとなるのが、200万人とも400万人とも言われる、いわゆる就職氷河期に正社員になれず非正規雇用に甘んじている人たちの処遇改善だ。彼らの待遇改善や賃金アップを図ることが、デフレ脱却の重要な鍵になる。
非正規雇用は、一般的な労働者の賃金と比べて低い賃金に甘んじている。また、雇用も安定しないため、長期的な人生設計を描きにくい。
非正規雇用にせよ、ゼロ時間契約にせよ、本質的には自らの時間を切り売りし、労働時間を提供することで対価を得る働き方である。
言葉を選ばずに言うと、このやり方はある意味楽だ。賃金は低いかわりに責任も少ない。与えられたことをこなせば良いし、あまり考えなくて済む。見方によっては安定しているとも言える。
しかし、そもそも、誰かに雇われて給料をもらうことが、唯一のカネを稼ぐ方法ではない。Youtuberに憧れる人が増えていることからも、若者は特にそのことに気づき始めているような気がする。
受け身から能動的な働き方への転換を図ること。このことが大事ではないだろうか。
いつまでも雇用主の理論に甘んじるのではなく、自らが雇用主と同じ立場となること。そのことが社会全体として見た場合、労働者の数の減少をもたらし、賃金アップしないと人を雇えない状況を作り出していく。
そうすると最終的には社会全体としての賃金アップにつながり、雇われて生活する人にも恩恵がもたらされていくのではないか。そうすれば自ずと労働者の身分も保障される方向となり、セクハラを含む様々な問題も減少していくはずである。
このことは学校でも教えないといけないし、同時に親の意識改革も必要となる。働き方改革の成否は、一人ひとりの意識改革にかかっているような気がする。
そんな事を考えさせられる記事だ。
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